親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

親知らずを抜いた後何日経って痛みが引いてきたのに、突然激しい痛みをぶり返してしまうケースがあります。これは「ドライソケット」という症状で、患部をふさいでいたカサブタ状の組織が剥がれてしまった時におこるもの。
今回は親知らずを抜く際に覚えておきたい症状「ドライソケット」についてご紹介します。

まずは歯を抜いた後の回復の流れを解説し、ドライソケットの症状や原因をご説明していきます。後半ではドライソケットの痛みを感じた時の対処法と、治療の流れについて見ていきましょう。

親知らず抜歯後の流れ:「血餅」が持つ重要な役割とは

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

血餅とは、親知らずを抜歯した後の空洞にできるゼリー状の組織です。
赤血球や白血球、血小板、線維素から作られ、カサブタと同じ役割を担います。患部の止血だけでなく、歯肉や骨の回復を助ける役割もある大切な組織なのです。
それでは親知らず抜歯後の傷口の治り方について、血餅やその後の変化を追いながら見ていきましょう。

●抜歯から2日程度で血餅ができる

血餅は、抜歯を行ってからおおむね2日程度で作られます。抜歯治療後に血の味が少しずつ無くなってきたら、ひとまず血餅が形成されて傷口が覆われた状態になるのです。
血餅ができると患部から少しずつ血管が延びてきて、歯肉を再構築する作業に入ります。患部に血液が集中するため腫れや痛みがピークを迎えますが、歯肉の回復にとってとても重要な時期です。血餅を舌で触ったり、口をすすぎすぎないように注意しましょう。
冷たいモノを食べたり、頬に当てると気持ちよく感じるかもしれませんが、患部の血行が滞ってしまう可能性があるので患部を冷やし過ぎないようにしてください。

●抜歯後1,2週間 血餅が自然に取れることがある

抜歯から1,2週間ほど経つと、血餅の中に血管が作られて、新たな歯肉を作るための材料が集まってきます。新たにできた血管の周りに、血餅の材料にもなっていた線維素(フィブリン)や、皮膚と粘膜の材料になるコラーゲンが集まってきて、「肉芽細胞」という組織が作られます。肉芽細胞は、後に歯肉や骨に成長していく組織です。
この頃になると応急処置の役割を担っていた血餅は不要になってくるため、赤黒い血餅が半透明に変わったり、縮んでいったりします。回復が早い方は血餅が自然に剥がれてくることもあるでしょう。ただカサブタと同じ役割を持っているため、あくまで自然にはがれるまでは患部に触りすぎないようにしてください。

●抜歯後2か月 傷口に歯茎や骨が再生されていく

親知らずを抜いてからおよそ2か月を迎えると、肉芽細胞は歯肉や骨といったさまざまな組織に変わっていきます。この段階で作られる初期段階の骨は「仮骨(かこつ)」と呼ばれます。通常の骨よりもカルシウム量が少なく強度も普通の骨より弱い状態です。
仮骨はそれから約1か月程度の時間をかけて修復され、通常の骨と同じ状態に再生していきます

親知らずの治療で気を付けたい症状「ドライソケット」とは?

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

親知らずを抜歯してから回復しきるまでの間、歯を抜いた後の患部は非常に繊細な状態に置かれています。特に治療から数週間の間、患部を守るのはゼリー状の血餅だけになるため、なるべく刺激を与えるべきではありません。
ドライソケットとは、血餅が剥がれて患部の空洞(ソケット)がむき出しになってしまった状態を指す言葉です。「抜歯窩治癒不全(ばっしか ちゆふぜん)」と呼ばれることもある通り、親知らず治療跡の回復が遅くなるだけでなく、激しい痛みを伴います。
肉芽細胞が再生されていないうちに血餅が剥がれてしまうと、歯槽骨が露出してしまいます。歯槽骨には歯の神経と繋がっていた部分が残っているので、神経が露出して激しい痛みを感じるのです。

●こんな痛みを感じたら? ドライソケットの症状

抜歯治療に伴う痛みは一度でも歯を抜いてみないとわからないですし、個人差も大きいもの。ただ、ドライソケットの痛みは治療に伴う痛みや、麻酔が切れた時の痛みの感じ方とは異なります。
抜歯に伴う痛みは、治療が終わって麻酔が切れた頃から始まり、血餅ができるにつれて少しずつ収まっていきます。これに対してドライソケットの痛みは、麻酔が切れて一度痛みが治まったあとに再び訪れるものなのです。痛みや血が止まったのに再び痛み出した、鋭い痛みを感じる、食事中に患部が痛むという方は、ドライソケットになってしまっている可能性があります。また、食べ物や細菌がドライソケットに入り込んでしまうと、急性の歯槽骨炎や顎骨炎になってしまうリスクも考えられます。

●ドライソケットになってしまう確率

そもそもドライソケットは、親知らずに限らない抜歯治療全般で起こりうる症状です。
ドライソケットは、抜歯治療を行った人の約2~4%に見られるという研究が示されています。その中で特に下の親知らずに起こりやすいと言われており、下顎の第三大臼歯を抜歯した患者のおよそ20%がドライソケットになったという見解もあるようです。

下顎の骨は上顎に比べて骨密度が高いため、比較的抜歯が難しいことが知られています。
加えて下顎第三大臼歯(下顎の親知らず)は、耳のあたりから下顎を通る太い神経「下歯槽神経」の近くに生えているため、他の歯に比べて抜歯の難易度が高いという特徴があります。
ドライソケットが“親知らずで注意したい症状”と言われるのには、このような理由が関係しているようです。

ドライソケットが起こる原因

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

歯の生え方の特性上、親知らずは他の歯よりもドライソケットになりやすいということが分かります。しかし抜歯後の過ごし方や生活習慣なども大きく関係しているのです。
抜歯治療後にドライソケットに陥ってしまう原因として、以下のようなものが挙げられます。

●食事やうがいなどで血餅がはがれてしまう

患部の近くで食べ物を噛む、飲み物を飲む際にストローを強く吸うなど、食事の仕方が原因で血餅が剥がれてしまう場合があります。固まってすぐの血餅はとてもデリケートな状態にあるため、普段通りに食事をしているだけでもはがれてしまう可能性があるのです。
また強くうがいをしたり、口をすすぐのもおすすめできません。
抜歯後は患部の周りを清潔に保つべきなのでうがいは必要なことなのですが、患部の状態が安定するまではあまり強く口をすすいだりしないようにしましょう。

●舌で患部を触ってしまう

ドライソケットに陥ってしまう方の中には、抜歯治療後に患部の周りを舌で触ってしまうケースも多いようです。血餅の形成が遅くなったり、剥がれてしまう可能性が考えられます。縫合した傷口をさらに広げてしまう可能性もあるでしょう。
治りかけのカサブタと同じように、一度血餅が剥がれてしまうと再び作られるまでに時間がかかりますし、歯槽骨炎などの症状が現れるリスクも高まってしまいます。抜歯治療後は、ドクターの判断があるまで患部周辺に触れないよう気を付けましょう。

●飲酒や入浴、運動で血圧が上がる

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

抜歯後の飲酒や入浴も、回復を妨げてしまう可能性があります。
血餅を作ってから患部の再生を待つ必要があります。そのため治療後すぐのタイミングではある程度出血する必要があるのですが、血餅ができてからの時期には血圧を安定させることが大切になるのです。
抜歯治療後は、血圧を安定させるためにお酒は控えるようにしてください。また治療直後は入浴を控え、血餅ができた後もシャワー程度に留めるようにしましょう。

●喫煙によって血圧が下がる

タバコを吸うことも、患部の治りを遅くしてしまい、ドライソケットを助長する一因と言えます。抜歯治療を行った場合、できるだけ早く患部に血餅が形成されるように、血圧を安定させる必要があります。血餅は血液成分からできているため、喫煙によって血圧が下がり患部へ送られる血が滞ってしまうと血餅を作るのに時間がかかってしまいます。その結果、血餅が不安定なまま回復が遅くなり、食事などで剥がれてしまうリスクが高まってしまうのです。

ドライソケットの対処法

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

「抜歯後1~2週間経っても痛みが消えない」「激しい痛みがぶり返してきた」
このような場合はドライソケットになってしまった可能性が考えられます。仕事やスケジュールの都合など、すぐに歯科クリニックで治療を受けられない場合は、痛みを抑えるための応急的な対処法を取りましょう。

●まずは安静にする

血餅が剥がれて激しい痛みを感じた時は、その原因となった行動を取りやめて安静に過ごすようにしてください。運動や入浴で傷口が開いてしまった時は身体を休め、食事などで血餅が剥がれてしまった場合は血が止まるまで安静にしましょう。
ドライソケットの痛みに限らず、抜歯治療の後は無理せず体を休めることをおすすめします。親知らずの治療を行う時は、しっかり休養をとれるようスケジュール調整しておくという工夫も大切です。

●処方された痛み止め・抗生物質を飲む

激しい痛みを感じたら、処方された痛み止めの薬を飲みましょう。
市販の痛み止めでも構いませんが、処方薬は患者にとって害のない範囲で、よりその症状を抑えられるよう調整された薬です。
抗生物質を処方されているときは、忘れずに飲み続けてください。親知らずを抜いた時に処方される抗生物質は、患部が治りきっていない時期の感染症を予防するために出されています。痛みや出血の有無に関わらず、出された分を飲み切るようにしてください。

●歯科クリニックで相談する

繰り返しになりますがドライソケットと思われる痛みを感じたら、すぐに治療を受けた歯科クリニックで相談しましょう。治療に伴う痛みと区別するのは簡単ではないかもしれませんが、痛み止めを飲んでも治まらないような激痛を放っておいてもメリットはありません。
2週間以上痛みが引かない、激しい痛みがぶり返してきたという場合はすぐにドクターに相談して、患部の状態をチェックしてもらいましょう。

ドライソケット治療の流れ

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

抜歯後の治療は、患部の自然治癒と感染症・炎症予防に重きを置いて進められます。
ドライソケットは「抜歯窩治癒不全」という名前の通り、抜歯後の自然治癒が上手くいかず、感染症などのリスクに晒されてしまっている状態です。
そのためドライソケットになってしまった場合は、患部の状態に応じて次のような2段階の治療を行って、自然治癒を妨げている要因を無くしていきます。

●炎症を抑え自然治癒を待つ

血餅が剥がれて傷口が開いてしまった場合、まずは患部を消毒し、感染症を防ぐ軟膏タイプの抗生物質を塗布します。患部から血が出ている状態であれば再び自然治癒が見込めるため、感染症を抑える薬を飲みながら2週間程度を待ちます。
処方された抗生物質はしっかり飲み切って、痛み止めは適宜服用しましょう。

●再掻爬(さいそうは)手術を行って血餅を作る

「血餅が剥がれてしまったものの出血がない」
「乾いた患部と歯槽骨がむき出しになっている」
このような自然治癒が見込めない場合には、患部に傷をつけて再び血餅が作られるようにします。このように治療のために意図的に患部を傷つけることを、「再掻爬(そうは)手術」と呼びます。

ドライソケットにならないために気を付けるべきこと

親知らず治療で覚えておきたい「ドライソケット」の原因と対処法とは?

抜歯治療後やドライソケット治療の後は、食事や歯磨きのやり方にも注意しましょう。

●抜歯後の食事について

親知らず抜歯直後の食事は、術後2~3時間経ってから食べることができます。ドライソケット治療を終えた後もこれにならって時間を空け、出血が治まってから食事をとってください。この時期はおかゆやゼリー食品、豆腐など、消化に良く噛まずに食べられる物がおすすめです。
患部が安定するまでの2日~1週間は、お米1に対して水3の割合で作る「三分がゆ」や、柔らかめに作ったごはん、うどんなどを主食にしましょう。患部を避けて噛むようにすれば、ハンバーグやポテトサラダなども食べられます。

●歯磨きについて

抜歯や再掻爬を行った日は歯磨きは行わず、うがい程度で済ませるようにしましょう。ブクブクと強くすすがずに、水を口に含んで何度か吐き出すようにしてください。
患部が安定してきたら、傷口を避けて歯磨きを行いましょう。患部の周りを歯ブラシで擦ってしまうと、縫い糸がほつれて傷口が開いてしまう可能性があります。
抜糸を行った後は、通常通り歯磨きを行うことができます。患部周辺を磨く時は、再び血餅が剥がれてしまわないよう注意しながら、優しく歯ブラシを当てましょう。

これらの対策は、ドライソケットになってしまった後の対策としてだけでなく、抜歯後にドライソケットにならないための予防法としても気を付けておきたいポイントです。

ドライソケットは、親知らずを抜いたら必ずなるというものではありません。リスクをきちんと把握して安静に過ごせば、そのまま順調に回復していくケースの方が多いのです。
もしドライソケットになってしまったらすぐに歯科クリニックで相談して、早めに対処していきましょう。